【ノーベル化学賞受賞】リチウムイオン電池の基礎を振り返る

ノーベル化学賞

リチウムイオン電池の発明者の一人、吉野彰さんがノーベル化学賞受賞という快挙を成し遂げました。
今では当たり前に普及しているリチウムイオン電池ですが、発明は30年以上前に遡るものです。
受賞までに、30年。その功績は計り知れません。

化学でもみっちり学習した電池の範囲ですが、改めてリチウムイオン電池の基本原理について考察してみます。

The Nobel Prize in Chemistry 2019の特設サイトで、今回の受賞内容について以下のように記載されています。

Akira Yoshino created the first commercially viable  lithium-ion battery in 1985. Rather than using reactive lithium in the  anode, he used petroleum coke, a carbon material that, like the cathode’s cobalt oxide, can intercalate lithium ions.

The result was a lightweight, hardwearing battery that could be  charged hundreds of times before its performance deteriorated. The  advantage of lithium-ion batteries is that they are not based upon chemical reactions that break down the electrodes, but upon lithium ions  flowing back and forth between the anode and cathode.

 -The Nobel Prize in Chemistry2019より

電池自体の歴史は古く、時代の需要にあわせて変化を遂げています。
リチウムイオン電池が発明された背景には、1980年代の携帯電話やノート型パソコンの普及があります。

1979年 自動車電話サービスの開始
1985年 肩掛け型携帯電話機サービスの開始
無線機や電池が小型化される前なので、重さが約3kgもあった
1987年 携帯電話機サービスの開始
1989年 初の超小型携帯電話機発売
1995年 PHSサービス開始
1999年 インターネット接続サービス開始

   引用:一般社団法人 電波産業会

リチウムイオン電池が発明された時期に、ちょうど携帯電話のサービスが開始されています。

総務省のサイトによると、1980年代から2000年にかけて、移動通信システムは、第一世代移動通信システム(1G)から第二世代移動通信システム(2G)に移行した時期になります。
第一世代(1G)は、肩掛け型携帯電話機など、アナログ方式とよばれる音声サービス(電話機能)のみでした。
1993年には、第二世代(2G)と呼ばれる移動通信システムが開始しています。第一世代の音声サービスにプラスして、デジタル方式と呼ばれるメールやインターネット接続の利用が可能になりました。

この携帯電話の普及にともなって、電池には、小型化と軽量化が求められるようになっていったわけです。

リチウムイオン電池とは

まず電池とは、化学変化(酸化還元反応)が起こる時に出入りする熱エネルギーを、電気エネルギーとして利用する(電流として取り出す)装置のことです。化学電池と呼びます。

化学電池は大きくわけて4つに分類されます。

  • 使い切り型の一次電池
  • 充電と放電を繰り返すことができる二次電池
  • 燃料電池
  • 生物電池

リチウムイオン電池は、充放電できる二次電池の一種です。

二次電池は、正極、電解液、負極から構成。
リチウムイオン電池の正極にはコバルト酸リチウム、負極にはカーボンが使われています。

図 https://www.mst.or.jp/object/tabid/564/Default.aspx

 

図のように、正極材、負極材、セパレータ―が渦巻き状に巻かれたものがケースに挿入され、その中に電解液が注入されている構造になっています。

正極のコバルト酸リチウムと、負極のカーボンは集電体と呼ばれる基盤に塗布されています。
正極集電体にはアルミ箔、負極集電体には銅箔の基盤が使われています。

集電体とは、フィルムが積層されたもの。
こちらの写真を見るとより集電体がイメージしやすいですね。

写真 OLYMPUSのサイトより

リチウムイオン電池の反応原理

The Nobel Prize in Chemistry 2019 受賞内容の一文より

 he used petroleum coke, a carbon material that, like the cathode’s cobalt oxide, can intercalate lithium ions.

a carbon material that intercalate lithimu ions  「リチウムイオンがインターカレーション可能な炭素材」を電極部材として使用したことが、受賞内容のひとつとなっています。

ではインターカレーションとは何でしょうか?

インターカレーションとは、2つの層間にイオンなどを挿入される現象のことです。

正極のコバルト酸リチウムと、負極のカーボン(炭素)は特定の結晶構造をしています。
The Nobel Prizeのサイトより引用させてもらいました。

図のように、特定の結晶構造をもつ炭素材が、内部にリチウムイオンを挿入することができます。
正極側のコバルト酸リチウムは、リチウムを含む化合物です。

このように、両電極の層間にリチウムが挟み込まれているので、放電時には負極から正極へ、充電時には正極から負極へリチウムイオンが移動していきます。充放電を繰り返しても、リチウムが溶解したり析出するものではないので、リチウムイオンの量は減らないことが特徴です。

受賞内容の一文にも、リチウムイオンが充放電の際に電極間を移動することについて触れています。

lithium ions  flowing back and forth between the anode and cathode

リチウムイオン電池の特許明細書

30年以上前の特許なので、OCR化がうまくできておらず、一部文字化けのテキストがありました。
なんとかPDFの原文を見ながら、大まかな概要を把握してみました。

検索ワードは「非水系二次電池」「吉野彰」です。
数本の特許がありました。

リチウムイオン電池の実用化にむけて、研究を重ねてきた歴史が残っていました。
炭素材だけではなく、セパレーターや集電体に関する特許など、リチウムイオン電池周辺の部材がひとつひとつ改良された経緯が特許から読み取れます。

下記の特許は、集電体に関するもの。
正極の集電体には、厚さ1~100μmのアルミニウム箔を用いることかつ、充電状態における開放端子電圧が3~5Vの二次電池と記載されています。
電極の厚さを薄くして、起電力が耐えられる部材としてアルミニウム箔を見い出したことが書かれていました。

【公開番号】特開昭60-253157
【公開日】昭和60年(1985)12月13日
【発明の名称】非水系二次電池
【出願人】
【氏名又は名称】旭化成工業株式会社
【発明者】
【氏名】実近 健一
【発明者】
【氏名】吉野 彰

【特許請求の範囲】
(1)電池の内部抵抗が5Ω以下の非水系二次電池であって、正極集電体として厚さ1~100μmのアルミニウム箔を用いることを特徴とする二次電池。
(2)電池の内部抵抗が5Ω以下の非水系二次電池であって、正極集電体として厚さ1~100μmのアルミニウム箔を用いることを特徴とする二次電池でありかつ充電状態における開放端子電圧が3~5Vの二次電池。

[発明が解決しようとする問題点]
本発明は、上記のように従来見出されていなかった高出力でかつ高エネルギー密度の二次電池を提供するためになされたものである。

リチウムイオン電池はニッケルカドミニウム電池に代わる二次電池として注目をされてきました。
数ある部材から、負極電極の最適な部材を見つけ出す、その経緯が詳細に書かれています。

【公開番号】特開昭60-253157
【公開日】昭和60年(1985)12月13日
【発明の名称】非水系二次電池
【出願番号】特願昭59-106556
【出願日】昭和59年(1984)5月28日
【出願人】
【氏名又は名称】旭化成工業株式会社
【発明者】
【氏名】実近 健一
【発明者】
【氏名】吉野 彰

黒鉛、グラファイトは規則的な層状構造を有しており、かかる構造の炭素材料は種々のイオンをゲストとする層間化合物を形成すること、特にClO,BF等の陰イオンとの層間化合物は高い電位を有し、二次電池正極として用いようとの試みは古くからなされている。かかる目的の場合層間化合物を形成し易いことが必須条件であり、例えば特開昭60-36315号公報に記載の如く、3000℃近い熱処理をした黒鉛、グラファイト構造が必須条件であった。本発明者らは別の観点から炭素質材料に陰イオンではなくLiイオン等の陽イオンを取り込ませたn-ドープ体を種々検討する過程において意外な事実を見出した。即ちLiイオン等の陽イオンを取り込ませる場合、該炭素質材料は過度の熱履歴を経ない方が優れた特性を有することを見出した。

さきほどの The Nobel Prizeの一文にもう一度戻りますが、負極に用いた炭素質材料は

petroleum coke

と書かれています。
日本語では「石油コークス」。
Wikipediaで調べると、石油精製における高沸点留分 (重質残渣油) を炭化したもの と記載があります。
石油精製の副産物ですね。炭素というと塊を想像していましたが、粒子の形状でした。

写真 Wikipediaより

炭素含有は90%以上と高く、針状コークスとも呼ばれ種類は、結晶性が高いことが特徴で、リチウムイオン電池の電極部材として用いられるためには、この結晶性が重要な部分になってきます。
炭素を電極として用いることは公知されていたようですが、リチウムイオン電池に最適な石油コークスは粒子サイズひとつとっても、μmの範囲内で検証されています。

石油コークスの詳細についても、いくつも特許が出ていました。
(参照特許 https://patents.google.com/patent/WO2014080632A1 )

 

まとめ

リチウムイオンの基礎の基礎は理解できました。
ここから特許の理解に入っていくためには、専門分野のより深い理解と、分析や実験検証に関する基礎知識も必要だと感じました。

現段階では、炭素材がなぜ最適だったのか、問題をどう解決したのか、大筋は分かりますが、深さが足りない状態です。
当業者と同じ、研究段階を理解しようとするには、リサーチ力が足りていないです。

今回は、発明者を絞って「リチウムイオン電池」「非水系二次電池」の主要特許を時系列に取り出し、主に「請求項」だけを読んでいきました。
数十件読みましたが、共通する専門用語や前の特許ででてくる概念が、次の特許でふれられています。
いつも言われているように、1件目の特許をとことん用語を調べて、基礎概念を理解して深く読んでいくこと、これが遠回りなようで最短距離です。

幸いなことに、ブログを書く過程で、勉強材料をたくさん見つけたので、PDFや気になるサイト、企業リストなどをパソコンのファイル上に保存しておきました。
いったんここまででペンディングしておいて、物理の終わった後に、またこの分野に取り組みます。

参照サイト

ソニー https://www.sony.jp/battery/
パナソニック https://industrial.panasonic.com/jp
電池工業会 http://www.baj.or.jp/
UACJ製箔 https://ufo.uacj-group.com/products/battery/index.html
材料科学技術振興財団 https://www.mst.or.jp/object/tabid/564/Default.aspx
旭化成 https://www.asahi-kasei.co.jp/asahi/jp/r_and_d/interview/yoshino/pdf/outlin_lithium.pdf






コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です