目次
(最大)静止摩擦力から動摩擦力へ
摩擦力は、3つに分類されます。
例えば、大きな荷物が床の上に置いてあり、その荷物を押して動かそうとする様子を連想してみてください。
物体(荷物)に押す力を加えると、面(床)に平行な摩擦力(friction)が働きます。
物体を押しても動かない状態の場合、押す力と摩擦力がつり合っているため、この時の摩擦力を静止摩擦力(static friciton)といいます。
物体が動き出す直前に、押す力はいちばん大きくなります。その摩擦力は最大摩擦力と呼びます。
物体に力をかけ続け、動き出す直前にかける力が最大になった後、やっと物体(荷物)が動き始めます。物が動き始めるとかける力も少しだけ小さくなります。この時の摩擦力を動摩擦力(kinetic friction)といいます。
動摩擦力で物体が動く理由は、押す力が摩擦力よりも大きくなるからです。
3つの摩擦力を図にあらわすと、下記のようになります。
図の縦軸は、物を押す力をあらわし、この力が一番大きくなる点が最大摩擦力になります。
斜面に物体が置いてある状況を想像してみてください。
同じように摩擦力が働いています。
物体が滑り落ちずにその場所にとどまっている場合、摩擦力とすべりおちる力はつり合っています。この時の摩擦力は、静止摩擦力です。
物体が斜面に沿って滑り落ちる時(動き出し時)、滑り落ちる力が摩擦力より大きくなっています。この時の摩擦力は、動摩擦力です。
つまり、静止摩擦力から最大摩擦力を経て、動摩擦力変わるということは、運動(動き)が発生するということになります。
ねじの原理
ねじを締めたり、緩めたり。この原理には、直角三角形が大きく関わっています。
自宅にあったねじを使って、ねじの構造について考えてみます。
こちらのサイトを参照して、ねじの種類を調べてみました。
下記はねじの基本構造です。
このねじは、頭部形状が「さら頭」と呼ばれるものでした。
ドライバーで締めた時に、頭部形状が平らになっているので、設置面で凹凸がなく仕上がりがきれいになるねじです。
部材同士を固定するために、接着剤とねじを使う方法があります。
接着剤の場合は、一度付けたら外れない接着強度が重要ですが、ねじの場合は、ドライバーひとつで取り外しができることがメリットです。
ねじを部材に取り付けることを締結と呼びます。
ねじは締めつけたり、緩めたりすることで、部材への装着や取り外しが容易にできます。
直角三角形
自宅のねじの構造を分解してみていきます。
ねじの胴部を1本のペンに見立てて、その外周に直角三角形を巻き取っていくと、写真のように、ねじのくぼみと同じらせん状を描くことが分かります。
ねじを締めたり緩めたりする原理を理解するには、直角三角形の斜面を想像すると理解しやすいと思います。
出典 IWATABOLT
ねじを回転させて部材に取り付けるということは、直角三角形の斜面に沿って物体を押し上げること原理と同じです。逆にねじを緩める場合は、物体を押し下げる(斜面を下る)ことになります。
特許明細書と最大摩擦力
摩擦力に関して、関連特許を調べてみました。
ボールねじ(ball screw) に関する特許に、「最大摩擦力」の概念が使われていました。
ボールねじとは
wikipediaによると
ねじ軸、ナット、ボールなどから構成される機械要素部品のひとつであり、直線運動を回転運動または回転運動を直線運動に変換する。
と説明されています。
ボールねじの主要メーカーであるKSSのサイトに細かい説明がありました。
下記がボールねじの断面図です。
出典 KSS
上の図で、青色のボールがありますよね?
このボールは、ねじ軸の外周にらせん状に形成された溝の中を転がります。ねじの軸の周辺を転がり、そのあとにリターンプレートという溝を通って、再び元のねじ軸の周辺をずっと転がり続けます。
このボールの回転する力をつかって、直進する力をつくります。
こちらの動画も、ボールねじの内部構造がよくわかります。
ボールねじのボールの役割は、摩擦が起きる部分を滑らかにするトライボロジー(潤滑)という働きをしています。
雨が降った後の斜面は、地面に貯まった雨水が潤滑の役割をするため、滑りやすくなりますよね。
同じように、摩擦力を小さくする潤滑のために、ボールを使っています。
摩擦に関する基礎知識と、上記のようなボールねじの仕組みを元にして、下記の特許を読むと理解が容易になりますね。
【公開日】平成31年1月10日(2019.1.10)
【発明の名称】ボールネジ制御方法
【出願人】
【氏名又は名称】ART−HIKARI株式会社
【0010】
本発明者は、上述の通り、変動指令の変化量が少ない場合、実加圧力が指令を十分に反映していない場合があることに着目した。そして、その原因は、モータの回転運動を直線運動に変換する機械要素であるボールネジの回転運動に際して、変動量が最大静止摩擦力以下の微細な変動量の指令である場合に、静摩擦によりモータ及び/又はボールネジが十分に回転しないために起こるのではないかと推測した。上述したように、加圧力の精密な数値制御は溶接をはじめ様々な機器において重要な要素である。そこで、最大静止摩擦力より少ない変動量の実行において、最大静止摩擦力以上の変化量を瞬間的にモータに与え、その後に予定されていた所定の値に変動させることで、当該課題を解決することに至ったものである。
【0011】
このため、瞬時にかける変動は、常に必要となるわけではなく、最大静止摩擦力以下であるか、又は最大静止摩擦力以下となる可能性がある微細な変動量の時にのみ実行すれば良い。また、摩擦力は機器や状況により、一律に定められるものではないために、微細な変動量に相当するか否かは、経験的に定められる微細変動量又は実測された微細変動量に基づいて判断されることが好ましい。ひとたび最大静止摩擦力を超えれば、ボールネジは回転をはじめ、静止摩擦力はなくなり動摩擦力となるから、瞬時とした時間は特に限定されるものではないが、時間が長いと変動による影響が大きくなることから、モータ性能に応じて少なければ少ないほど好適である。
ボールねじは、トライボロジーによって、重たい機械などを動かすことができるため、工作機械、各種ロボット、産業機械、医療関連機器などに幅広く使われています。トライボロジーやボールねじの切り口で分野を広げていくのも良さそうです。
トライボロジー学会で、子供と学べる「摩擦に関する実験ノート」がPDFで掲載さていました。
この実験ノートを使って、まずは子供と「摩擦とは何か」を学んでみようと思います。
知子の情報にペンディングして、物理の先を進めていきます。
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