騒音を吸音する仕組みについて

ピアノ防音室のある家

先日、義理の兄夫婦の自宅に行きました。


義理の兄夫婦は、音楽が趣味で、ピアノや管楽器などを楽しんでいます。
趣味の範囲を超え、演奏会等で演奏する機会もあるため、自宅内の一室をまるごと音楽専用の部屋にしていました。

24時間、周囲を気にせずに音楽を楽しむための防音室。
一見すると、他の部屋とは変わらないように見えますが、実際に楽器を演奏してもらうと、防音効果の優れていることに驚きました。

いったいどのように音をもらさないようにしているのか。

今回は、防音について、物理の学習と絡めて考えてみます。

防音の基本

防音室の役割は、ピアノなどの楽器の音(騒音)をなるべく小さくして、外部にその音をもらさないようにすることです。
音(騒音)を小さくするということは、発生する音を吸収する吸音と呼ばれます。

では、どのように音が吸音されるのでしょうか?

こちらのサイト(製造技術データベースサイト イプロス)を参考にしてまとめます。

前回の記事で、音は空気や物体の振動が伝わり、伝播していくものだと触れました。

物理で学ぶ波とは 縦波と横波

2019年10月18日

発生した音(例:ピアノの音)の振動を小さくするために、吸音材(防音室の壁に使用される材料)が使われています。

ピアノから発生した音は入射波という波になり、通常は壁に当たって反射することで反射波という波が発生します。
これが繰り返されることで、合成波(定常波)が発生し、共鳴を生み出しています。
壁に吸音材を使うと、発生した入射波の音エネルギーの一部が、吸音材内で摩擦熱によって熱エネルギーに変えられて吸収されたり、一部は吸音材の背面に逃がされます。

このように、反射波の割合を小さくすることで、発生する音を小さくすることができます。

特許明細書

騒音に関して、吸音材をつかった特許をいくつか調べました。 今回はこちらの特許を取り上げます。

【発明の名称】荷物棚及び鉄道車両
【出願番号】特願2017-177865(P2017-177865)
【出願日】平成29年9月15日(2017.9.15)
【出願人】 【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所

【背景技術】
【0002】
鉄道車両の分野では、乗客の快適性の向上の観点から、走行時などに発生する騒音の対策が常に求められている。鉄道車両の内部で騒音対策のための構造を適用した技術としては、例えば特許文献1に記載の鉄道車両がある。この従来の鉄道車両では、荷物棚に対して開閉自在に設けられた蓋部が設けられている。蓋部は、グラスウール等の吸音材を一対の多孔板で挟んだ構造をなし、音響エネルギーを吸収するようになっている

鉄道車両において、走行時の騒音対策は、乗客へのサービス向上として常に新しい対応が求められています。
快適な車両内環境を提供するため、こちらの特許では荷物棚の構造に騒音対策を適用しています。

吸音材料には、断熱性・段音性のあるグラスウールを使います。

グラスウールとは、建築物の壁・天井に使われる吸音材です。
建築中の家の壁に、このような黄色の色をした資材が使われているのを見たことはありませんか?

 参照:旭ファイバーグラス

グラスウールの製法は綿菓子と同じ要領。
固体であるガラスを溶かし、高速回転させ、遠心力の力を借りて、綿菓子のように線状のグラスウールが作られます。

下記の記事で、綿菓子の作り方についてまとめています。

身の回りの現象を物理の基本法則に結び付ける

2019年8月23日

線状のグラスウールは、完全な固体ではなく、アモルファスという結晶構造が崩れた状態なので、音を吸収する断音材として利用できます。

【0004】
上述した従来の鉄道車両では、音響エネルギーの吸収によって騒音レベルを低下させるものであるが、特定の周波数帯域の音を吸収する作用を有するものではない。特に高速で走行する鉄道車両では、例えば250Hz近辺、或いは100Hz近辺の低周波数帯域の音が問題となる場合があり、所望の周波数帯域の音を選択的に吸音できる技術が必要となっている。また、鉄道車両の内部で騒音対策を施す場合、既存の構成の変更や、構成の追加などを極力回避することが好ましい。

日本騒音調査によると、一般的に人の耳で聴きとれる音(可聴域)は20ヘルツから2万ヘルツと言われています。
100ヘルツ以下の音を低周波音、耳では聞き取れない超低周波音は20ヘルツ以下です。

環境省より

騒音といっても様々な周波数がありますが、走行する車両での騒音は、100ヘルツ近辺の低周波域だと述べられています。

低周波の具体例は、エアコンや冷蔵庫の動作音、エンジン音など、比較的低い音です。
可聴音とは違って、低周波音を不快に感じる度合が人によって違っているため、対策が難しい音域と言われています。
近年はこの低周波音に関する苦情も増えているようです。

車両内の荷物棚を図示したものです。

【0007】
この荷物棚では、本体部の長手方向に延在する中空部が気柱共鳴孔部によって外部に連通している。かかる構成により、中空部内で定在波が発生し、気柱共鳴孔部の位置からの中空部の長さで定まる共鳴周波数において、気柱共鳴孔部の開口端周りの空気の粘性抵抗によって吸音効果が奏される。したがって、この荷物棚では、本体部の長さ及び気柱共鳴孔部の位置を変えることで、所望の周波数帯域の音を選択的に吸音できる。

荷物棚が車両内の騒音を吸音によって低減する仕組みは、

1、荷物棚の内部は、トラス状(三角形の集合体で構成する構造形式)のリブによって、空洞があり、この中で騒音の定常波が発生。

2、騒音の定常波を吸収(吸音)するものとして、気柱共鳴孔部とよばれる穴が開いており、ここで入射波の一部が吸音される。

3、気柱共鳴孔部と棚の本体部の端には、吸音材が使われているため、吸音材によって吸音される。

【0025】
本体部12の内部空間には、トラス状をなす複数のリブ13が設けられている。リブ13は、例えば本体部12の押出成形時に本体部12と一体に形成される。これらのリブ13により、本体部12の内部空間には、当該本体部12の長手方向に延在する断面三角形状の中空部Fが本体部12の幅方向に複数配列されている。本実施形態では、中空部Fは、断面形状において三角形の底面が載置面12a側を向く一つの第1の中空部FAと、断面形状において三角形の底面が載置面12aと反対側の面(以下、反対面12bと称す)側を向く二つの第2の中空部FBとを含んでいる。
【0026】
また、本実施形態では、本体部12の長手方向の一端面12c及び他端面12dは、いずれも中空部Fが露出しないように壁部14が設けられた閉鎖端となっている。さらに、本体部12の反対面12bには、気柱共鳴孔部Hが設けられている。気柱共鳴孔部Hは、本体部12の長手方向に延在する中空部Fを外部に連通させることにより、気柱共鳴を生じさせる孔(開口)である。

閉鎖端(閉じた状態)の場合、定常波の節になります。
よって1つの波長がλなので、両端が閉鎖端の場合の基本振動は波長の1/4倍となります。

【0027】
かかる構成により、中空部F内で定在波が発生し、気柱共鳴孔部Hの位置からの中空部Fの長さで定まる共鳴周波数において、気柱共鳴孔部Hの開口端周りの空気の粘性抵抗によって吸音効果が奏される。本実施形態のように、本体部12の長手方向の一端面12c及び他端面12dが閉鎖端となっている場合、気柱共鳴孔部Hと閉鎖端との間で発生する定在波の周期λと、中空部Fの長さ(気柱共鳴孔部Hから閉鎖端までの距離)Lとの間には、L=1/4λ(=3/4λ、=5/4λ…)の関係式が成り立つ。また、共鳴周波数と周期λとの間には、音速をvとした場合にf=v/λの関係式が成り立つ。したがって、この荷物棚11では、本体部12の長さL及び気柱共鳴孔部Hの位置を変えることで、所望の周波数帯域の音を選択的に吸音できる

気柱共鳴孔部は、本体部の載置面の反対側に設けられています。
吸音作用を行う気柱共鳴孔部の位置を、波長の山部分にした場合、1/4λ、3/4λ、5/4λ…の位置になり、このように穴の位置を変えることで、周波数に応じて選択的に音を吸音できるという仕組みです。

まとめ

物理の波動に関して、学習の初歩的な部分を押さえた後に、どのくらい特許が読めるかを確認できました。
言葉を図示化すること、そのためには日頃の学習を身近なことに結び付けていくことが必要です!

防音に関しても、防音材の種類もたくさんあります。
今回は車両に使われた防音材でしたが、建物の構造の一部として使われるものやシート自体が防音効果を持つものなど、その種類も多岐にわたります。
新しい防音材として、別な特許で勉強になりそうなものを見つけたので、次回はその防音材から広げて調べてみたいと思います。

勉強素材は無限。調べると芋づる式に見つかりますね。
企業のサイトから特許庁、特許の用語からまた別な特許へ…

今日はいったん残りの物理をある程度進めて、そのあとのお楽しみに今回見つけた特許を調べていきます。





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