身の回りにあるクーロン力

静電気はなぜ起こるの??

冬の乾燥した時期にやってくる、苦手なもの。
そう、静電気です。

衣服の着脱時、ドアノブに触れる時、「パチン」と音が鳴り、刺激が起こりますよね。
何とか静電気が発生しないように…と思っている方も多いはずです。

ドアノブと肌の間でいったい何が起こっているのでしょうか。
静電気の仕組みを知っておけば、対策ができそうです。

まず静電気とはどういう状態で起こるのか、仕組みはどうなっているのか、勉強も兼ねて静電気について紐解いていきます。

静電気の起きる仕組み

生物を含む、私たちの周りにあるすべての物質は、原子という小さな粒子から構成されています。


理化学研究所

さらに原子の中心には原子核があり、プラスの電荷をもつ陽子と電荷を持たない中性子から成り立っています。
マイナスの電荷をもつ電子は、原子核の周りをまわっています。

通常、プラスの電荷をもつ陽子と、マイナスの電荷をもつ電子の数はつりあっているため、電気を生じていない状態です。
電気的に中性で安定した状態になっています。

この電荷が何らかの要因でバランスが偏ることがあります。

例えば、電気的に中性の2つの物質同士が接触した際に、電子が片方の物質に移動します。
この時、電子が移動して1つ少なくなった物質はプラスに帯電します。
電子が移動してきた物質は、電子が1つ多い状態になり、マイナスに帯電します。

RSテクニカルショップより

プラスとマイナスにそれぞれ帯電した状態の物質を引き離すとどうなるでしょうか。

帯電した状態はバランスの崩れた状態。
この状態から、元の安定した状態に戻ろうとします。

この時、マイナスに帯電した物質から、プラスに帯電した物質に電子が移動します。
この電子の移動が放電であり、これが私たちが痛みを感じる静電気の正体です。

静電気が発生する要因

物質が帯電し、静電気が発生する要因は大きくわけて3つあります。

剥離帯電

例:食品用サランラップなど

摩擦帯電
2つの物質が擦り合った時に発生します。
例:衣類の着脱

接触帯電
異なる2つのものがぶつかる、または接触する時に発生します。

クーロンの法則

電荷間に働く静電気力のことをクーロン力と言います。
このクーロン力は、電荷が同符号(正と正、負と負)の場合は反発し合い、異符号(正と負)の場合は引きつけ合うという特徴があります。

電荷Q₁と電荷Q₂が、rメートル離れているとき、次の式が成り立ちます。

電荷間に働く力(クーロン力)は、電荷の積に比例し、電荷間の距離の2乗に反比例します。

特許明細書

厄介者の静電気ですが、こちらの特許では静電気の原理を活用しています。

【発明の名称】容器詰め液状食品の保存方法
【出願番号】特願2017-241888(P2017-241888)
【出願日】平成29年12月18日(2017.12.18)
【出願人】
【氏名又は名称】森永乳業株式会社

容器詰め液状食品に分類される、ドリンク類に関してです。
上記のドリンクは、ココアを溶かしたものです。
ココア(粉)の溶質と水である溶媒間には、密度差が生じます。
高い品質を保持するために、密度差による成分の偏りを軽減することが必要です。

ドリンクのパッケージに「よく振ってお飲みください」と記載されています。
こちらの特許にも、成分の偏りを軽減する方法として、「保存中に液状食品の容器の上下を反転させて分散成分の偏りを防ぐ手法もある」と書かれています。

しかし液状容器の容器としては、屋根型形状(ゲーブルトップ)タイプが使われている場合があります。
ゲーブルトップ型容器は、紙の牛乳パックの形状です。
この場合は、上下反転はできなくなってしまいます。

【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が研究を進めた結果、静電気を帯びた素材を容器詰め液状食品の容器外部に配置することで、液状食品中に電場を形成し、電荷を帯びた成分のクーロン力によって液状食品中の成分の経時的な成分の偏りが抑制されることを見出した。
また、帯電した溶質成分であれば、その電荷符号に関係なく同種の電場をもつ素材を配置することで様々な液状食品に利用できることも知見した。

そこで容器外部に静電気を帯びた素材を配置することが提案されています。
溶質はプラスまたはマイナスに帯電し、容器には同じ電荷を帯びた素材を配置することで、同種の電荷が反発しあうクーロン力を利用して、成分が偏ることを抑制しています。

素材には、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン、アクリル、ポリエステルが使われます。
下記は「帯電列」と呼ばれる帯電しやすさを正負順に並べたものです。

RSテクニカルショップより

この特許で使われる素材は、マイナスに帯電しやすい素材がほとんどです。

同種の電荷のクーロン力を利用すると考えると、溶質はマイナスに帯電してるものになります。
特許内でも、マイナス帯電であることが明記されています。

【0009】
前記容器に具備された素材が、-4000~-6000Vに帯電された素材であることが好ましい。
前記素材が、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン、アクリル、ポリエステルからなる群から選択される一又は複数の素材であることが好ましい。
前記保存する工程が、前記液状食品が充填された容器を垂直方向を維持し、かつ前記素材と、前記素材とは異なる電荷に帯電可能な素材とを擦り合せて保存する工程であることが好ましい。

【0012】
この発明が提案する容器詰め液状食品の保存方法は、液状食品中で通常、乳化によりコロイド状態で存在する溶質成分が電荷を帯びていることを利用する。例えば、フレッシュクリームに含まれる脂肪球はマイナスに帯電していることが知られている(松村康生等監修、「食品の界面制御技術と応用  —開発現場と研究最前線を繋ぐ—」、第173ページ、シーエムシー出版、2011年)。また、ココア飲料に含まれるココア粒子は、水に分散している時、アニオン性コロイドとなっていることが知られている(戸田義郎他編、「食品用乳化剤  —基礎と応用—」、第275ページ、光琳、平成9年)。
一般的に液状食品は、乳化物の物質形態を呈している。乳化物の分散相である溶質と連続相である溶媒との密度差により、保存中に溶質成分の浮上や沈殿が生じ、成分の偏りが生じる。そこで、電荷を持つ素材を液状食品の容器外部に配置し、液状食品内に電場を形成させる。電場の向きは、成分の移動を抑制したい溶質の電荷の種類(+もしくは-)、及び、抑制したい移動の方向(浮上もしくは沈殿)によって配置位置を決定する。

特許内で、「クーロンの法則」の公式は、反発のクーロン力がより効果的に作用するために、帯電した成分と素材の距離が近く、また帯電の理想値を導き出すために用いられています。

【0016】
この発明で利用するクーロン力の大きさはクーロンの法則に従い、帯電した物質間の距離の2乗に反比例する。
すなわち、液状食品中の帯電した成分と、帯電された素材との距離がより近い場合はクーロン力が強く働き当該距離がより遠い場合はクーロン力がより弱く働く
そのため、例えば液状食品中の帯電した成分が浮上する場合は、容器詰め液状食品の上部に帯電した素材を配置して反発のクーロン力を作用させることが、クーロン力をより強く作用させることができるため効果的である。すなわち、表1の1~4の反発のクーロン力を用いる組み合わせが、帯電した成分と帯電した素材がより近く、よりクーロン力が強く働くため、より効果を得やすい配置となる。
帯電された素材は、-4000~-6000Vに帯電された素材であることが好ましい。この範囲内の電荷量であれば、溶質の浮上や沈殿が抑制され、好ましい状態で液状食品を保存することが可能である。

まとめ

物理や化学ででてくる法則は、丸暗記ではなく、必ず実例と結びつけること。
数字や公式だけにこだわりそうになりますが、特許や身近にあるものと連動させて考えること。

特許を読むたびにこの大切さを感じます。
引き続き、物理と特許の結び付けで、残りの物理を進めていきます。


参照サイト

KEYENCE https://www.keyence.co.jp/ss/products/static/static-electricity/basic/nature.jsp
Panasonic https://www3.panasonic.biz/ac/j/service/tech_support/fasys/tech_guide/staticsys/static/index.jsp
図形テック https://www.zukentec.co.jp/zukentecnews/z_expert/emc/27.php

 

 




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