断熱膨張と人工雪

運動会シーズン

9月から10月かけて、運動会シーズン到来、週末ごとに運動会が行われています。
最近では、熱中症を避けるため、9月ではなく、10月に日程をずらして対応する学校も増えているようです。

とはいえ、10月でも気温が高く、日差しもまだまだ強いですよね。
ニュースでも学校での熱中症が報告される事例も続いています。

厚生労働省のホームページでも、熱中症による入院患者等発生情報が掲載されいます。

                2019年熱中症入院患者数(厚生労働省より)

気象状況にもよりますが、やはり発生件数としては7月後半から8月中旬にかけて多くなっています。

7、8月は猛暑です。

東京オリンピック2020は、開催日程が7月22日から8月9日(パラリンピックは8月25日から9月6日)です。
開催期間中の暑さ対策を進めていくことが重要な課題になっています。
東京都が本腰を入れて、東京2020大会に向けた東京都「暑さ対策」推進会議を設置したほど。

先日、BBCなどの主要なメディア媒体で、下記のニュースが掲載されていました。
https://www.bbc.com/news/world-asia-49684810

オリンピック2020に向けて、「暑さ対策の実験のひとつとして、造雪機で雪を降らす」というものです。
屋根のない観覧席部分で、人工雪を降らせた実験。
導入検討中ということで、効果については今後検証していくそうです。

スキー場のみの用途だけでなく、雪の降らないような場所でも使用できる人工降雪機。
降雪機(造雪機)の原理には、物理で学んだばかりの断熱膨張の仕組みが利用されています。

今回は、断熱膨張について考えていきます。

人工降雪機について

スキー場などで数回見かけたことのある人工降雪機。
人工降雪機は、スキー場で雪不足を補うために、人工的な雪をつくり、積雪を生じさせる機器です。

大きくは2つのタイプに分類されます。

  • スノーガンタイプ 圧縮空気の噴射で散雪をおこなう
  • ファンタイプ 大型のファンを用いる

 

人工降雪機から雪がつくられる仕組み

人工降雪機の「雪」と天然の「雪」は、まったく同じではないようです。
天然の雪は、雲の中の小さな水の粒が、周りの水蒸気を取り込んで、どんどん大きくなり、雪の結晶を成長させながら地面に落ちていきます。
六角形の樹枝状(よく見る雪の結晶ですね)になっていて、結晶の間は隙間がたくさんあるので、ふんわりとしたやわらかい雪質です。

一方、人工の雪は、天然の雪に比べて少し雪質が硬い状態です。
これは、人工雪をつくる方法が違っているからです。
人工雪は、丸い粒状の形状をしています。

人工降雪機が雪をつくる仕組みは次の通りです。
コンプレッサーで圧縮した空気と高圧の水を一緒にノズルから霧状に噴射します。
圧縮した空気の断熱膨張効果を利用して、一気に冷却することによって雪をつくりだしています。

人工雪は、小さな水の粒を一気に冷却(凍らせて)つくるので、形状が丸い粒状になっています。

断熱膨張とは

断熱とはどういう状態なのか。

断熱過程(英:adiabatic process)
外部との熱のやりとり(熱接触)がない状況で、系をある状態から別の状態へと変化させる熱力学的な過程である。

この断熱過程のシリンダーに気体を閉じ込めて、ピストンを引いたり、押したりする場合、内部では異なる変化が生じます。

ピストンを押すと、気体を圧縮することになります。
シリンダー内部は、ピストンを押すことによって、圧縮されます。
つまり、外部から仕事をすることを意味します。
圧縮されると体積が小さくなるので、分子は激しく壁にぶつかる運動をします→よって温度が上昇します。
この状態は、断熱圧縮と言います。

逆に、ピストンをひくことはシリンダー内部が膨張することになります。
内部が膨張するということは、気体が外部に仕事をすることになります。
膨脹することで、体積が大きくなるので、分子の運動はぶつかる距離がのびるので、跳ね返りが弱くなります。
激しい分子運動とは対照的に、運動は緩やかになるので、温度が下がります。
この状態は、断熱膨張と言います。

断熱膨張と特許

では、「断熱膨張」と「人工降雪機」のキーワードでいくつか特許を検索しました。

【公開番号】特開平6-300404
【公開日】平成6年(1994)10月28日
【発明の名称】屋内人工スキー場用造雪装置
【出願人】
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社

【0002】
【従来の技術】屋外のスキー場では、すでにスノーガン式の人工降雪機が多用されている。スノーガン式の人工降雪機は、約7kg/cm2に加圧した空気と水とを混合してスノーガンから大気中に噴霧し、噴霧された水滴の断熱膨張と、外気との接触による冷却とにより、人工雪を造成するものである。なおこの場合、外気温が-1℃以下でないと水滴が凍結されず雪にならない。スノーガン式の人工降雪機の場合、スノーガンより局所的に多量の水が噴霧され、これが凍結して人工雪となるのであるが、水の凍結する際の潜熱が周囲の空間に放出される。

この特許は、屋外ではなく屋内で人工降雪機を使用しています。
屋内空間では空気の循環が不十分であり、水の凍結する際の潜熱がスノーガンから周囲の空間に放出されてしまうことが課題となっています。
そのため、スノーガンの下に、冷気吹き出し口を設けています。
スノーガンの断熱膨張効果で、冷却された水滴が噴出され、時間の経過とともに自由落下してくる水滴に、さらに冷気吹き出し口から冷気を与えて冷却することで、状態のよい積雪環境をつくりだすというものでした。

 

別な特許です。同じ内容ですが、表現も違っています。
原理はほぼ同じなので、いくつかの特許を横並びに見ていくことで、少しずつの違いが見えてきます。

【公開番号】特開平7-243737
【公開日】平成7年(1995)9月19日
【発明の名称】人工降雪装置
【出願人】
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は人工的に造雪する人工降雪装置に関するものである。
【0002】
【従来技術】従来、人工降雪機には、送風機を具備するファンタイプの人工降雪機(通称「スノーマシン」)と、送風機を具備しないガンタイプの人工降雪機(通称「スノーガン」)があった。
【0003】ここでファンタイプの人工降雪機は、少数個(通常1乃至10数個)の種ノズルから噴出された氷晶に、多数個(通常数10乃至数100個)の水ノズルから噴霧された水を混合させ、これを送風機の噴流にのせ、滞空中に完全な氷の粒とした後、着雪させる構造のものである。
【0004】なおここで種ノズルの数量を少なくするのは、種ノズルには水の他に圧縮空気を供給する必要があり、この圧縮空気の供給量を増やすとコストアップにつながってしまうからである。
【0005】一方ガンタイプの人工降雪機は、加圧した水と空気を混合して1乃至数個のノズルから噴出し、空気の断熱膨張により微粒化した水を冷却して氷晶とした後、着雪させる構造のものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ファンタイプの人工降雪機は、外気温が十分下がったときには、使用する水ノズルの数を増やすことによって大量造雪が可能である反面、種ノズルの数量が少ないことから、ガンタイプの人工降雪機に比べて降雪開始の外気温が1℃程度低くなくてはならないという欠点があった。
【0007】一方ガンタイプの人工降雪機は、ファンタイプの人工降雪機に比べて、外気温が1℃程度高くても造雪可能であるが、その反面、ファンタイプの人工降雪機程には降雪量を増やすことはできないという欠点がある。またガンタイプの人工降雪機は、加圧した水と空気のノズルからの噴出力によって噴射され造雪される構造なので、降雪範囲が狭く、また降雪距離も短いという欠点がある。さらに従来ガンタイプの人工降雪機はソリ式や定置式のものが多く、その移動やノズルの噴射方向の変更が不便であるという欠点があった。
【0008】本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来より高い外気温からでも良質な雪を容易に大量に造ることができる人工降雪装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するため本発明は、送風機を具備しノズルから噴出した氷晶と水を該送風機の噴流に載せて混合し造雪せしめるファンタイプの人工降雪機と、加圧した水と空気を混合してノズルから噴射し空気の断熱膨張により微粒化した水を冷却し氷晶化して造雪せしめるガンタイプの人工降雪機とを具備し、前記ガンタイプの人工降雪機を前記ファンタイプの人工降雪機の近傍に取り付けるとともに、前記ガンタイプの人工降雪機のノズルから噴射された氷晶が、前記ファンタイプの人工降雪機の噴流内に混合するように、ガンタイプの人工降雪機のノズルの噴射方向をファンタイプの人工降雪機の噴流方向に対して所定角度傾斜せしめて設置したことを特徴とする。

2つの種類の人工降雪機には、メリットとデメリットがあり、それぞれを近くに取り付けることで、相互のデメリットを補っています。
仕組みは上記の特許と同じで、スノーガンから噴出された氷晶が自由落下していく過程で、ファンタイプから噴出する冷気を合わせることで、良質な雪をつくりだすものでした。

まとめ

特許では、物理のある原理に関して、その用語がさらっと書かれていることが多いです。
当業者にとっては当たり前の原理は、わざわざ説明されていない場合が多いということです。

原理の基礎を学ぶ、調べる→ その用語の使われ方を特許で確認する

この地道で、時間のかかることをコツコツと積み重ねていくのみです。

参照サイト

厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169949_00001.html
樫山工業 https://www.kashiyama.com/ski/snow-maker/snow-gun/
島津製作所 https://www.an.shimadzu.co.jp/support/science/020112/020112a.htm

 




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